来年10月のインボイス制度の導入に向けて、税制の場での議論が佳境です。
(インボイス制度とは、消費税の適正な支払いを実現するために、税率や登録番号などを記載した適格請求書を導入する制度です)

自民党内の雰囲気は、中小企業・小規模事業者関連の部会では、6:4で「インボイス反対・延期」が優勢。
一方で、税調全体や金融・経済関連の部会では、8:2で「インボイスを予定どおり導入すべし」という意見が優勢。
私は両方の会合に参加し、以下のような理由で「予定通り導入すべし」という意見を述べています。

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<そもそも消費税は全ての事業者が支払うべき>
インボイス制度導入のそもそもの考え方は、「消費税は全ての事業者が適正に支払うべき」というものだと思います。
消費税方式の間接税を導入している主要国は、日本を除いてほぼインボイス的な制度を導入済みと言われています。
当初、消費税が平成元年に導入されたときに、本来であれば全ての事業者に課税すべきところを、導入による影響や混乱を軽減するために年収3000万円以下を免税点として設定し、消費税の納入義務から除外しました。
さらに平成15年には、免税点を1000万円に引き下げましたが、その水準は現在まで維持されています。
この免税点未満の事業者は、売上に消費税が含まれていても払う必要がなく、税金を払わなくても良い分が実質的な収入となっているため「益税」と呼ばれることがあります。
つまり、インボイス制度の導入は、「全ての事業者が消費税を支払う」という本来の姿に戻すことなのです。

<益税が拡大してきた>
また、みなさんがご存知の通り、当初3%で導入された消費税は、その後5%、8%、10%へと引き上げられました。
これにより、当初はそれほど大きくなかった「益税」がどんどん拡大し、課税事業者と免税事業者の格差が大きくなってきたのです。
インボイス制度の導入とともに、免税事業者の多くが課税事業者に転換することで、こうした課税の不公平が是正されることになります。

<軽減税率の正確な適用>
さらに、10%に引き上げられた2019年には、食料品等に8%の「軽減税率」が導入されました。
これは、生活必需品などに対する消費税を軽減する措置ですが、消費税を支払うときに10%なのか8%なのかを把握する手段がなく、正確な課税ができないという問題が発生しました。
このため、来年10月までの4年間を周知期間として、軽減税率を含めた税金の正確な徴収のためにインボイス制度を導入することになったのです。

<会計のデジタル化などによる経営の効率化>
ただ単にインボイス制度を導入するだけでは、事業者にとっては負担が増えて、税金を取られるだけになります。
そこで政府は、IT補助金を拡大し、クラウド会計などのバックオフィスのデジタル化によって自動的にインボイス(適格請求書)を発行できるだけでなく、請求や支払いデータを自動的に会計処理し、バックオフィスを効率化し、経営改善につなげていくデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現しようとしています。
(ちなみに導入費用は安いものを選べば1ヶ月に数千円で、その費用も当面補助されます)
つまり、インボイス制度を導入することで、中小企業の経営効率を高め、日本経済の生産性を向上させることが可能になるのです。

<インボイスを延期・中止すべきという意見>
上記のような理由により推進してきたインボイス制度ですが、以下のような理由で、導入を延期したり、中止したりすべきという声も聞かれています。
・円安、エネルギー価格の高騰、新型コロナ禍など、中小企業の経営が厳しいこの時期に導入すべきでない
・これまで免税事業者だった零細事業者、家族経営の事業者、フリーランスなどが、課税負担の重さに耐えられずに廃業する恐れ
・あと1年を切ったタイミングでも不安の声が聞かれるなど、制度の周知が不十分

<それでもインボイスを予定通り導入すべき理由>
私はそれでもインボイス制度を来年10月に予定通り導入すべきと考えます。
・上記の通り、導入しないことによる税負担の不公平が拡大している
・すでに中小企業の半分が登録を終えており、導入まで1年を切って登録数がさらに伸びている
・これまで政府の制度変更を信じて対応を進めてきた事業者の信頼を裏切ることになる
・導入後も3年間は免税事業者に対する売上の80%を控除可能、さらに3年間は50%を控除可能とするなど、経過措置を設けている
などです。

<これからすべきこと>
それでも、中小の事業者から不安の声が聞かれていることは事実です。
こうした状況に対しては、以下のような対応を行うべきと考えます。
・上記のような制度導入の必要性を改めて丁寧に説明する
・それでも不安を持っている事業者の声を丁寧に聞く
・その結果、必要があれば追加的な対応をする

インボイス制度は、政府が決定したことだから予定通り導入するというスタンスではダメで、(現在推進しているマイナンバーカードのように)導入することによって中小企業者の経営や日本経済全体にとってプラスになる、変革のチャンスと捉えて進めるべきです。
そのようなポジティブな結果を実現するため、あと1年間、よりきめ細かな対応が必要だと考えます。