今日は歴史的な1日になった。
政府・日銀が24年ぶりのドル売り・円買い介入に踏み切ったのである。
少し長くなるので予め結論を箇条書きにすると、
・今回のドル売り・円買い介入のタイミングは適切というより絶妙だった
・ただし、ドル売り・円買い介入は効果が出にくいと言われ、その効果が持続するかどうかは不透明
・政府・日銀はこれまで以上に為替の動きと向き合う覚悟を迫られることになる

為替レートが3月の115円程度からズルズルと円安に動く中で、円安を背景とした輸入品の値上げが相次ぎ、政府・日銀は有効な円安対策をとっていないという批判を浴びてきた。
政府・日銀はGW前後から口先介入を続け、144円台で推移していた先週は日銀によるレートチェック。
ある意味、介入準備は万端というところまで行っていたが、それでも市場参加者は実際に介入するかどうか懐疑的との声が多かった。

その理由は、円安是正のドル売り・円買い介入は、円高是正のための円売り・ドル買い介入に比べて効果が限定的と考えられていることが大きいだろう。
なぜなら円売りの原資は日銀が理論上無限に保有しているが、ドル売りの原資は外貨準備であり無限ではない。
そのことを市場参加者に見透かされるとアタックを受け、介入効果が思うように上げられないと言われている。
実際に、1992年にジョージ・ソロスが英国中銀の介入に勝利し、英ポンドが欧州通貨メカニズム(ERM、現在のユーロの原型)から離脱したことなどは、当局者の間では大きな教訓になっている。

その円売り・ドル買い介入が大きな効果を発揮するとすれば、米当局との協調介入が必要だが、インフレを懸念しドル高を望む米当局が協調介入に踏み切ることはないというのが市場参加者の見方でもあり、今回の政府・日銀の苦しいところでもあった。

そうした状況を突き破っての介入は、大きなサプライズ効果を発揮した。
実際に、日銀・黒田総裁の会見中から円安が進み、17時前には146円が目前、このまま行けば150円まで一気に進むのではという雰囲気になりかけていた17時前後、為替レートが一気に円安にふれ、そのまま1時間以内に140円台後半まで5円も円高に戻した。


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今回の介入が大きな効果を発揮した理由は
・日銀の金融政策決定会合後の黒田総裁の記者会見の直後
・岸田総理が訪米している最中
 というタイミングが大きいだろう。
黒田総裁が「金融政策は当面変更しない」と宣言した一方、財務省・日銀が介入に踏み切ったということは、金融政策とはある意味無関係に為替レートの投機的な動きには断固とした姿勢で臨むという政府のこれまでの方針に沿ったもので、説得力があった。
さらに、岸田総理が訪米している最中ということは、当然米国政府や通貨当局とも対話をし、了承(少なくとも暗黙の了解)が得られているという推測が進み、次は協調介入があるかもしれないという憶測をも呼んだ可能性がある。
いずれにしても、タイミングは適切というよりも絶妙だったと言える。

ただし、この介入の効果がどれだけ持続するかは不透明である。
上述の通り、ドル売り・円買い介入の効果は限定的であると考えられ、今後の円安局面で有効な対応が取れなければ市場参加者に見透かされ、アタックを受ける惧れもある。

政府・日銀は、これまで以上に為替の動きと向き合っていく覚悟を迫られることになる。
そのことは当然、政府・日銀も承知しており、次の一手も色々と準備しているはずである。
いずれにしても、しばらくは、厳しい心理戦が続くことになるだろう。